フェレットの病気 | 広島市東区の動物病院『はちペットクリニック∞』
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フェレットの副腎疾患を未然に防ぐ?

Lupron Therapy (リュープロレリン治療)

フェレットには副腎疾患が高い頻度で起きる事が知られています。フェレットが罹患する腫瘍の中ではオス、メスともに副腎腫瘍は発生頻度が極めて高い疾患です。

性成熟すると、体内では性腺刺激ホルモンが分泌されるようになります。
フェレットの場合、生後まもなく卵巣あるいは精巣を摘出してしまうため、本来は性ホルモンは分泌されなくなると考えられます。
しかし、副腎にも性ホルモン分泌機能が存在しており(LH受容体が存在している)、フェレットでは不妊手術後、副腎だけが常に刺激されて性ホルモンを過剰分泌し、数年経たのちに副腎が過形成、腫瘍化してしまうと考えられています。
性成熟を過ぎる生後半年を過ぎてからの不妊手術が病気発生を予防する面からは一番望まれますが、海外のファームでの繁殖・不妊手術実施後の販売といった現状からは難しい対処方法です。

うちの子、ももちゃん。一般的に、どんな地域に飼育されているフェレットでも繁殖期は春(3月頃)になると始まります。不妊手術を受けているフェレットにおいても、血液検査を行なった結果、春頃より性ホルモンの血中の値が高値を示すというサイクルを持っていることがわかりました。
そのため、米国のエキゾチック動物専門医であるDr. Cathy Johnson-Delaneyらは、1月頃に性腺刺激ホルモンの分泌を抑制するLupronを1回あるいは2回投与することで副腎疾患の予防が可能であるかの研究を現在進行形で行っています。現在、Dr.の調査結果を支持する米国のエキゾチック専門病院では、1月頃(オスでは12月末~1月初旬、メスでは1月下旬から2月中旬の時期)になると毎年フェレットにLupronあるいは近年ではDeslorelinとメラトニンの投与を行なうことを勧めているところもあります。(実際に、アメリカのエキゾチックの病院のホームページをみると同じ治療をすすめているところをみかけます。しかし、残念ながら副腎疾患を予防できる方法はまだ確立されたとは言えない状況ではあります。)
2013年7月には、性腺刺激ホルモンワクチンによる予防効果についての論文もネブラスカ大学より示され、より予防についても調査が進められています。また、フェレットは、ほぼ室内にて飼育されており日照時間が長すぎるのではないかとの指摘もあります。ライトをつける時間は8時間、消灯時間を16時間とするような飼育方法についても調査が行われています。

近頃フェレットの人気も下火になってきて、来院するベビーフェレットは少なく、殆どが高齢フェレットばかりになってきています。
そして、その殆どの高齢フェレットが心臓疾患、副腎疾患、インスリノーマを発症しているといった具合です。
いずれにせよ、副腎疾患を予防できる治療法はまだ確立されてはいませんし、これらの予防法の効果についてもさらなる研究結果が待たれるところです。

Use of a GnRH vaccine, GonaConTM, for prevention and treatment ofadrenocortical disease (ACD) in domestic ferretsLowell A. Millera, Kathleen A. Fagerstonea,., Robert A. Wagnerb, Mark FinklercaUS 2013/07/29

副腎疾患

フェレットで高頻度に発生する内分泌疾患その1

副腎疾患

副腎はヒトを含めてあらゆる哺乳動物にとって、生命を維持するために欠かすことのできないホルモンを分泌する重要な臓器です。
最新情報のコーナーでも触れましたが、副腎から性ホルモンが過剰に分泌されてしまうことでフェレットに様々な症状を引き起こすことが特徴です。
早期に不妊手術を受けているフェレットでは高頻度で見られます。そして、多くの症例ではインスリノーマ(参照)を併発します。発病の他の原因としては、室内での日照時間、遺伝的素因も関連していると考えられています。

症状は?
メスの場合: 脱毛・薄毛の進行、外陰部の腫脹、乳首の発赤、乳腺部の腫脹、外陰部から分泌液や排尿回数の増加など。

オスの場合: 脱毛・薄毛の進行、乳首の発赤、乳腺部の腫脹、そして、前立腺の腫脹による排尿困難や尿道が閉塞してしまい生命に関わる事態もおこりえます。

さらにオス・メスともに、性ホルモン(エストロジェン)の骨髄への長期間の作用によって、骨髄の造血能力に障害が発生し、再生不良性の貧血が発生することもごく稀に見られます。

診断は?
症状、超音波検査等の画像診断、血液検査によるホルモン値の測定等の検査を組み合わせて行ないます。
罹患した副腎の病理組織検査により、過形成、良性腫瘍あるいは悪性腫瘍と診断されます。

 

治療は?

外科的な治療:

手術にて摘出した巨大化した副腎(悪性腫瘍)外科手術によって過形成あるいは腫瘍化した副腎の摘出を行います。一般的に術後は良好な経過をとることが多いのですが、副腎は2個あるためもう片側の副腎が罹患し再び発病することもあります。また、右側の副腎が罹患した場合には、解剖学的に完全摘出が難しく、病変部の部分切除術となることも多く、術後も内科治療を必要とすることがあります。
手術のリスクは、右側の副腎が罹患した場合や腫瘤が極めて巨大化している場合には高くなります。

内科的な治療:

長期持続型のLH-RH誘導体酢酸リュープロレリン(リュープロン・リュープリン)という薬を定期的に注射します。海外ではフェレット専用の新薬、インプラント製剤であるLinkIconSuprelolin F (ビルバック社、1年に一度の接種)による良好な治療報告もありますが、国内では利用することはできません。

また、注射は根本的な治療ではなくホルモンの分泌をコントロールして症状を抑えるといったものです。したがって、腫瘍の増大を抑えることは期待できません。内科治療は、インスリノーマや心疾患の併発や高齢である場合など、手術不適応の症例での選択肢になります。
病気の予後は?
近年、欧米では副腎の過形成:良性腫瘍:悪性腫瘍=26%:64%:10%あるいは良性:悪性=53.4%:46.6%であったとの報告があります。また、外科手術後の長期的な生存期間を130頭のフェレットで調査したところ、良性・悪性の診断結果に関わらず余命に有意差が認められない。その上、左右副腎のどちらかを完全摘出ないし部分摘出したいずれの症例でも生存期間に有意な違いが見られなかったとの報告もなされています*。
インスリノーマや心疾患などの疾患を併発している場合には術後の生存期間やQOLに影響を与えます。
そのため、治療を選択するには、これらの疾患を鑑別しておく必要があります。
将来的には、副腎疾患を治療することより発病を予防することが必要不可欠であり、さらなる調査が進むことに大きな期待がもたれています。
当院でも、副腎疾患の発症を予防することを目的としたリュープロレリン接種を推奨しています。あとは、Siprelolin Fの国内認可を希望しています。

*1 K. Swiderski etal : Long-term outcome of domestic ferrets treated surgically for hyperadrenocorticism: 130 cases (1995–2004):Journal of the American Veterinary Medical Association May 1, 2008, Vol. 232, No. 9, Pages 1338-1343

* 2 Neal L. Beeber : Surgical Management of Adrenal Tumors and Insulinomas in Ferrets : July2011 Journal of Exotic Pet Medicine Vol. 20, Issue 3, Pages 206-216

*3. Gandolfi RC, Weiss CA. Adrenal disease (hyperadrenocorticism). Published February 20, 2007. Available at: http://www.ferret.org/pdfs/health/Adrenal_Disease_Comprehensive_with_Medical_Therapy.pdf.

インスリノーマ

フェレットで高頻度に発生する内分泌疾患その2

インスリノーマ

インスリノーマとは?

膵臓(すい臓)のβ細胞(インスリンを分泌する細胞)の腫瘍で、3~4歳以上の高齢のフェレットに多く見られる疾患です。インスリンは、生体内で唯一血糖値を下げる働きをするホルモンです。インスリノーマを発症すると、多量のインスリンが分泌されるために慢性的に低血糖を起こすようになります。

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膵臓内の結節状腫瘤(インスリノーマ)

インスリノーマの症状は?

・元気がない、うつろな状態になる
・後ろ足に力が入らない
・よだれが出る
・口の周りを引っ掻くしぐさをする
・体重が減ってきた
・食欲があまりない
・寝ている時間が長い
・体温が低い
・昏睡状態やケイレン発作を起こす

インスリノーマの治療は?
インスリノーマの治療には、内科療法(飲み薬による治療)・外科療法(手術による治療)があります。

 

内科療法のみ 平均生存期間 約半年前後、最高でも1年半
外科療法のみ 平均生存期間 約1年~1年半
内科+外科療法 平均生存期間 約1年半~2年

といったこれまでの診療報告があります。

インスリノーマと付き合っていく上で

ブドウ糖を用意しておきましょう!

昏睡状態になっている時に飲ませてあげて下さい。しかし、発作が起こった直後や意識が完全に無い場合に、無理に与えると誤嚥するおそれがありますので様子を確認した上で与えて下さい。ブドウ糖は市販ではガムシロップあるいは蜂蜜でも代用できます。

フェレットバイトは与えない!
多くのフェレットの大好物であるフェレットバイトや甘いおやつを常時与えると、血糖値が急上昇し、その結果、反動で低血糖を引き起こすようになります。

お薬を自己判断で減らしたり止めたりしない!
インスリノーマは外科手術・内科手術のいずれを行なっても完治の望めない進行性の病気です。手術後も定期的な血液検査を行い、内科治療を継続していくこととなります。お薬は、決められた容量・用法を守りきっちり飲ませることが大事です。

消化器の病気

フェレットにもヘリコバクター菌の感染症

胃炎と潰瘍

原因と症状は?
人の胃炎や胃癌の原因の1つとしてもよく耳にするHelicobacter pyroli菌。
フェレットでも同様に、Helicobacter mustelae菌の感染が胃や十二指腸に潰瘍を形成することがあることが知られています。
急性では無気力、食欲廃絶、血便、歯ぎしりや口周りをしきりに掻くなどの症状が見られ、慢性では体重減少や急性症状を繰り返したりします。

診断・治療は?
ほかの疾患を鑑別しておく必要があります。フェレットで多い、異物などの誤食、胃腸の腫瘍、尿毒症などが無いか血液検査やレントゲン検査を行い鑑別します。内視鏡による胃粘膜生検検査が最も確実な確定診断になりますが、ほかの疾患を鑑別することから類推して診断、治療を行うこともあります。
治療には、抗生物質、胃酸を抑える薬や胃粘膜保護剤を使用します。

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フェレットにも感染するフィラリア症とは?

犬と同じく蚊が媒介する寄生虫です。

原因と症状は?
フィラリア症とは、犬と同じ寄生虫であるDirofilaria immitisというソーメンのような線虫が、心臓の右心室から肺へ向かう動脈に寄生することで生じる病気です。フィラリア幼虫を持った蚊に刺されると、皮下組織に幼虫が入り込み脱皮を繰り返し心臓から肺に向かう血管へ移動をします。犬では感染から肺血管移動まで4~5ヵ月ほど要する期間を、フェレットでは約70日で移動が生じるとも言われています。寄生虫感染により生じる症状は、食欲・元気不振、腹水貯留、呼吸困難と慢性経過をたどるケースから、肺血栓症を生じることによる急性死までさまざまです。当院近隣では、犬の予防効果も高まってきており犬のフィラリア症さえ見る機会が少なくなっていることから、フェレットでの感染例を開院してから幸いまだ見たことがありません。獣医になりたての十数年前には、犬では日常茶飯事の感染症だったことを思うと考えられなかったことです。

診断・予防・治療は?

残念ながら犬とは異なり、血液検査でフィラリアの子虫であるミクロフィラリアが検出されるケースほぼありません。また、犬で行われるELISA法を用いた成虫検出検査では、感度が低く偽陰性(感染しているにも関わらず陰性となること)が出ることも多く確定診断をすることはできません。一番高感度な検査は、PCR検査による診断ですが商業ベースで行われていないため、現状、症状とレントゲン検査、エコー検査を組み合わせて診断しています。
そのため当院ではフィラリア予防薬を与える前に無症状のフェレットにおいては、血液検査による感度の問題より感染確認は行っていません。

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予防は、犬と同じように毎月イベルメクチンという内服薬の投与、皮膚へのスポットタイプの外用薬などがあります。
すでに感染してしまい症状がでているフェレットでは、心臓病への支持治療とモキシデクチンによる治療(新たな感染予防)を行います。Vena Cava症候群といわれる状況においては、外科的な摘出が試みられることもあります。実験的に感染させた症例で成虫駆除(内科治療)を行った治療の死亡率は14%から43%であったと報告されています。いずれにせよ、予防にまさる治療なしです。

参照Biology and disease of the ferret , James G. Fox et al.3rd, 2014